>磯田道史

> 江戸時代は、かつてないほどに、行政の手続きを、ややこしくした時代であった。人類史上、これほどまで、わざとのように、行政書類を煩雑に処理する社会もめずらしい。 それには、戦いがなくなった時代に、武士が多すぎたことも関係していた。 。。。 武士の世界は、人が余っている。 「相役である」 と、一人でできる役職を二人以上で担当させ、多くの武士を役につけた。また、 「月番である」 と、わざわざ月当番にして仕事を回した。 「そのほうが、権を専らにするものが出でぬ」 そう信じられた。 。。。 行政上のきめごとをしようとすれば、複雑なルートをたどって、あちらこちらを書類がまわり、ものすごい数の武士が判子を押すことになった。